はじめに
本記事では、ワクチン被接種者が、感染してしまった場合には、接種者であるがゆえに、ウイルスを拡散してしまうという状況について考えてみました。ワクチン被接種者がスーパースプレッダーになってしまうという話です。(スーパースプレッダーとは、2003年のSARS(重症急性呼吸器症候群)の感染拡大の際に、特定の人が感染源になっていた、という話)
この記事のネタ元の一つは、後述の、2021年7月頃に起こったハワイで起こった感染拡大の件で、それはワクチン接種者が引き起こした、というブログ?です(ネタ元不明)。そのネタ元ではさらっと触れているだけで、詳しいところまで解説がなかったので、どうして、ワクチン接種者なのに感染拡大を引き起こすのか、について解説を試みました。
結論
感染したワクチン被接種者が、他にコロナウイルスをばらまいてしまう状況として、以下のような可能性があると考えました。
- 新型コロナウイルスのワクチンの感染予防効果は、不完全なため、ワクチン接種を行なっているにも関わらず、一部の人はコロナに感染してしまう(ブレイクスルー感染)ことが、報道等ですでに明らかになっている。
- ワクチン接種者が感染する(ブレイクスルー感染)と、ワクチンの発症予防効果が効いて、未接種者よりも一層、発症しない、無症状のままの状態になりやすいと予想される。しかし、ウイルスは鼻腔やのどなどに保菌したままの状態が続く。
- 当人は、ワクチン接種を行なっているので、当分は感染することはないと、思っているし、必要があってコロナの感染症の検査を行なわない限りは、感染に気づくことはなく、当人はウイルスを保菌した状態で「自分は感染していない」との誤った認識で、長期間、通常の日常生活の行動を続けることになる。
- 同感染者の喉、鼻腔内のウイルスは増殖を続け、感染が発覚するまで、他に拡散させてしまう。
想定される状況
既報のように、新型コロナウイルスワクチンを接種すると、(感染予防効果はさておき)発症予防効果が得られることがわかっており、厚労省からデータが公表されています。→ 「ワクチンはいつまで効果が継続するのか?→感染予防効果は約5ヵ月で半減!新型コロナウイルス」 ワクチン接種すれば「発症しないからいいことじゃないか!」と私も思っていたのですが、その時はその状況がよく理解できていませんでした。
これは、新型コロナウイルスに感染している(いわゆるブレイクスルー感染)が、無症状だった場合、検査しない限りは、自分が感染したことに気づかないまま、家の中など、人が近くにいるような状況で「ワクチン接種しているから大丈夫」とマスクをはずし、鼻腔内や唾の飛沫など、自分の保有しているウイルスを回りにばらまくいてしまう、可能性があるという話です。
ハワイで起こった感染拡大。ワクチン接種者のせいか。
日本では、ほとんど知られていないと思いますが、2021年の7月に米国ハワイ州で新型コロナウイルスの感染拡大が発生しました。その時の状況を、解説します。
2021年7月、米国のワクチン接種者に限定して、自粛解除 → 感染爆発に。
長らく、ハワイでは、新型コロナウイルスの感染拡大防止の対策として、渡航自粛を行なってきましたが、コロナの感染者数が低下してきたので、7月8日に以下のように米国本土からの渡航条件を大幅に緩めました。
ハワイ州、米本土から渡航の新型コロナワクチン接種者に隔離など免除へ(JETRO 2021年6月28日)
米国ハワイ州のデービット・イゲ知事は6月24日、米本土から渡航する新型コロナウイルスワクチン接種完了者について、渡航前の事前検査や到着後の自主隔離に関する義務を7月8日から撤廃すると発表した。ワクチン接種を完了したハワイ州への渡航者は、米国疾病予防管理センター(CDC)発行のワクチン接種記録カードをハワイ州のウェブサイト(Safe Travels Program)に登録し、同州到着時に記録カードを保持していることで、事前検査や自主隔離が免除される。
つまり、米国本土からの渡航は、ワクチン接種証明さえあれば、あとは、なにも検査もしなくていいです、と渡航条件を緩めたのです。
下のグラフは、ハワイの感染者数の推移を表したものです。
ハワイ州が行った、渡航に関する自粛、解除を以下に並べてみました。
- 2021年7月8日 渡航自粛解除
- 2021年8月23日 渡航自粛、再開
- 2021年11月1日 渡航自粛解除
上のグラフからわかるように、2021年7月8日に渡航自粛を解除すると、感染者数が急激に増えたため(感染爆発)、あわてて、8月23日に再度、渡航自粛を行い、渡航者の入国を制限しています。
11月の自粛解除では、感染拡大せず。
さて、その後、2021年の8月からの自粛の効果が現れて、感染者数が減ってきたので、2021年の11月にも、再び、ハワイへの渡航自粛解除を行なっています。
この時の渡航条件は、7月のときのものとは違い、ワクチン接種証明と陰性証明書の2つが要求されています。そして、11月に自粛解除を行なってもこの時は、感染拡大が起きませんでした。
ワクチン接種証明だけでは、不完全。ブレイクスルー感染者が紛れ込んでいた。
2021年の7月と11月の自粛解除で何が違ったのか、それらの渡航条件を下表にまとめてみました。
自粛解除時期 | 渡航条件(米国本土からの渡航者) |
---|---|
2021年7月 | ・ワクチン接種を完了している米国本土からの渡航者(米本土から戻ってくるハワイ住民含む)は、2021年7月8日以降(ハワイ時間)、事前検査プログラム並びに自己隔離は免除される。 ・CDC発行のワクチン証明書をハワイ州Safe Travel Program Webサイトにアップロードし、ハワイ州到着時に持参、提示を義務付け。 |
2021年11月 | ・ ワクチン接種を完了した方:ワクチン接種証明書並びにハワイへのフライト出発3日以内に事前検査(PCR NAAT検査または抗原検査)を受診し、医療機関発行の陰性証明書の提示、 または、 ワクチン接種を完了していない方:ハワイへのフライト出発1日以内に事前検査(PCR NAAT検査または抗原検査)を受診し、医療機関発行の陰性証明書の提示。 |
上記の表だとちょっとわかりにくいので、下表にワクチン接種者の場合のものだけ、抜き書きしてみます。
自粛解除時期 | ワクチン 接種証明書 | 事前検査 |
---|---|---|
2021年7月 | 必要 | 免除 |
2021年11月 | 必要 | 必要 |
つまり、2021年7月の自粛解除では、ワクチン接種証明書を提示すれば、当人が実際に感染していないもの、とみなして、米国本土のワクチン接種済みのアメリカ人を、ハワイに渡航させたところ、ワクチン接種済ではあるが、新型コロナウイルスに感染していた人(ブレイクスルー感染者)が紛れ込んでいて、感染拡大につながったと考えられます。
一方で、2021年11月にも、自粛解除を行なっていますが、この時は、2021年7月の時とは違って、事前検査を条件に加えたので、感染拡大にはつながらなかった、と考えられます。
接種後でも感染し、鼻腔内にウイルス保持。無症状者は厄介。
さて、ワクチン接種していれば、ウイルスを保持、保菌しないのでは?と考える人もいると思います。しかし、以下の報道によれば、ワクチン接種していても、ウイルスを保持したままになっていることがわかっています。
- デルタ株、ワクチン接種しても鼻腔で増殖 米で確認 ナショナル ジオグラフィック(日経新聞 2021/9/8)
- 鼻にいるコロナは喉の1万倍 対策は「うがい」(毎日新聞 2020/4/22)
コロナに感染していて、無症状のワクチン被接種者は、「私はワクチン接種してるから…」と、未接種者よりは、マスク着用などの唾などの飛沫拡散の防止行動を取らなくなりそうですし、「私、ワクチン接種してるから検査不要!」とコロナ感染症の検査を受けることから一層遠ざかりそうと容易に想像できます。
こんな状態がずっと続けば、ワクチン接種で症状が出にくいがゆえに、感染したワクチン接種者(ブレイクスルー感染者)がウイルスをが拡散しつづけることになると予想できます。
最後に
ブレイクスルー感染は、ただの特殊な現象かと思っていましたが、こうしてみると、ワクチン効果を逆手に取るような、かなり厄介な現象のようです。ワクチン接種者も未接種者も、結局は、拡散防止行動を取らないというわけです。