はじめに
現在の新型コロナウイルスの主流株は「オミクロン株」ですが、2022年1月末あたりから、「ステルスオミクロン株」が流行しつつあるとの報道がなされるようになってきました。ステルスオミクロン株は感染力が強く重症化しやすいとの報道がなされていますが、実際のところはどうなのかを調べてみました。
後述しますが、調べてみますと、「ステルス」などと目を引く名前がついていることから、一部のマスコミが面白おかしく煽っていて、それに例の小池知事、吉村知事が乗っかっているそんな思惑が見え隠れしている、と私は感じてしまいます。
本記事では、ステルスオミクロン株がどのようなものなのか?、その感染力、重症化は実際のところどうなのかについてまとめてみました。
結論
以下の結論となります。
- ステルスオミクロンは、ごく一部の研究機関の古い検査方法では発見できないため「ステルス」と呼ばれているだけで、ほとんどの研究機関ではオミクロン株として問題なく検出できていた。ただし、「ステルス」(BA.2)かどうかを認識するには、追加の遺伝子解析が必要で判明までに時間がかかる。
- ステルスオミクロンは、通常のオミクロン株よりも高い感染力を有するというのが、多くの認識であり、最大で40%ぐらい高い可能性がある。
- ステルスオミクロンで重症化するかどうかは、あまりよくわかっていない。
- ステルスオミクロンによる危険性を煽っているメディアは、FNNプライムオンラインとテレ朝ニュースだけであり、他のメディアは一線を画している。
- 視聴率を獲得したい、テレビ局系ニュースのテレ朝ニュース・FNNプライムオンラインが「なんとかステルスオミクロン株で重症化する!」という報道をしたいがために、その根拠として、東京大学医科学研究所の佐藤佳准教授の実験結果に飛びついたというのが、実際のところだと推測している。
- ステルスオミクロンという表現は、危険を煽りたい一部メディアが多用しているだけで、多くのメディアや公的機関では通常使われない。BA.2と表現する。
ステルスオミクロン株とは?
ステルスオミクロン株とは?
ステルスオミクロン株は、最初にデンマークで見つかったとされています。現在の流行しているオミクロン株は、主流は「BA.1」という型ですが、それ以外に「BA.2」と「BA.3」が存在していて、そのうちの一つ「BA.2」が感染力が違いそうだ、というのがステルスオミクロンの話です。下図は、メーテレでの説明で使われていたものです。
ステルス→日本では今までも検出できてた。判別に時間がかかるだけ。
「ステルス」などと、インパクトがある言葉がつけられていますが、これは、特定の古い検査方法では見つけられないことから「ステルス」と呼ばれているだけで、通常、ほとんどの研究機関では検出が可能です。以下の報道があります。
「ステルス・オミクロン株はそれほどステルス(発見が困難)ではない」と米ウイルス学者 通常のPCRで判別可能(中日スポーツ 2022/1/28)アリゾナ大のウイルス学者、エフレム・リム助教は「ステルスと呼ばれるのは、あくまでも特定の古い検査法で検出しにくいことが理由。ほとんどの大学は、検出できる新しい検査法を用いているので、全くステルスではない」と語った。 SO株であっても、通常のPCR検査でコロナ陽性か陰性かは判別できる。ただ、従来のオミクロン株にみられる「スパイクタンパク質の欠損」がSO株には存在しないため、PCR検査では従来のオミクロン株なのか、それともSO株なのか判別できない場合もあり、研究所などの遺伝子検査を要するという。
日本では、当初から「ステルスオミクロン」を検出可能な検査方法を採用しているので、検出もれになってはいなかったとのことです。ただ「BA・2」かどうかは遺伝子検査をしないと判別できないので、これまでよりも時間がかかるということ。つまり、ステルスでもなんでもなかったってことです。
報道機関での違い→煽っているのは一部テレビ局ニュースだけ!他は普通。
メディアでのステルスオミクロンについての報道の様子を下表にまとめました。
報道機関 | ステルスオミクロンに関する報道 |
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テレ朝ニュース | 最新研究“感染力高く重症化しやすい”市中感染相次ぐオミクロン亜種(2022/2/22)神奈川県で初めて、新型コロナ・オミクロン株の亜種『BA.2』の感染が3例確認されました。神奈川県:「感染経路は不明となってますので、県としては市中感染とみています」また、大阪府では、感染経路が分からない3例が新たに確認。これまでの例からしても、解析で伝播力が高い株が出てくると、遅かれ早かれ置き換わるので、今後『BA.2』が主流になっていくのは、ほぼ間違いない。 |
FNNプライムオンライン | 「ステルスオミクロン」重症化しやすい可能性 最前線の研究者“今後オミクロン株と置き換わる”(2022/2/21)東京大学医科学研究所 佐藤佳准教授:今のBA.1という従来型のオミクロンよりも、流行しやすいということが1つ。2つ目が、ステルスオミクロンの方が病原性が高い可能性があり、重症化しやすい。 |
日テレニュース | 該当のニュースなし |
TBS NEWS | “ステルスオミクロン”「BA.2」東京都で6例確認 うち2例は市中感染(2022/2/18) 東京都は、ステルスオミクロンと呼ばれる新型コロナのオミクロン株の亜種がきのうまでに6例確認されたと発表しました。うち2例は、都内で初めての市中感染だということです。東京都はきのう開かれたモニタリング会議で、去年12月からきのうまでにゲノム解析を行った3047件のうち、オミクロン株の亜種=「BA.2」が、6件確認されたと発表しました。このうち2件は海外への渡航歴がなく都内で初めての市中感染だということです。 |
テレ東BIZ | 東京都が「BA・2」を迅速検査(2022/2/17) 東京都は新型コロナウイルスのオミクロン株の系統の1つで強い感染力があるとされる「BA・2」の疑いのある検体を迅速に見つける独自のPCR検査を開始しました。1月31日以降にこの方法で検査した285の検体のうち、「BA・2」が1例見つかったということです。これとは別に、去年12月と1月に実施したゲノム解析で6例見つかっており、このうち2例が海外渡航歴などが無い市中感染とみられることも明らかになりました。「BA・2」はデンマークやインドなどで増加していて、専門家から今後の発生動向に注視が必要だと指摘されています。 |
日経新聞 | WHO、オミクロン派生型「毒性に差がない可能性」(2022/2/23)【パリ=白石透冴】世界保健機関(WHO)は22日、新型コロナウイルスの変異型「オミクロン型」の派生型「BA.2」について、主流の変異型「BA.1」より「感染力が強いようだ」との見解を発表した。毒性には大きな差がない可能性にも言及した。 |
東京新聞 | 大阪でもオミクロン派生型確認 市中感染か、拡大の恐れ(2022/2/22)大阪府の吉村洋文知事は22日、感染力が強いとされる新型コロナウイルスのオミクロン株の派生型「BA・2」にこれまでに計13人が感染していたと記者団に明らかにした。このうち16~18日にゲノム解析された3人は感染経路が不明で、市中感染の可能性があるという。吉村氏は「今後の感染拡大の新たなリスクとして認識してほしい」 |
読売新聞 | 感染力強いオミクロン株「BA・2」、都内で市中感染を2件確認(2022/2/17)都によると、昨年12月以降に都健康安全研究センター(健安研)などで行ったゲノム解析で、7件のBA・2感染を確認。このうち2件が、直近に海外渡航歴がなく、感染経路が不明な市中感染とみられるケースだったという。 |
毎日新聞 | 新型コロナ オミクロン派生型、県内3人初確認 海外渡航歴なく/神奈川(2022/2/23)県は22日、新型コロナウイルスの変異株「オミクロン株」の派生型で、主流型を上回る感染力を持つとされる「BA・2」に県内の3人が感染したと発表した。BA・2への感染が確認されたのは県内で初めて。3人は直近に海外滞在歴がなく、県は市中感染の可能性があるとみて警戒を強めている。 |
中日新聞 | 60カ国でオミクロン派生型 強い感染力警戒、分析急ぐ(2022/2/5)【ワシントン共同】新型コロナのオミクロン株の一種で、世界で感染急拡大を引き起こした主流型を上回る感染力を持つとされる派生型「BA・2」が、日本を含む約60カ国で確認されたことが5日、各国の研究で分かった。特定には時間のかかる遺伝子解析が必要で「ステルス(隠れ)オミクロン」の異名を持つ。現時点で重症者急増やワクチン無効化を示す調査結果はないが、全体像は不明点が多いとして各国は警戒。専門家が分析を急いでいる。 |
産経新聞 | 亜種「ステルスオミクロン」確認 感染力18%高いか(2022/1/28) 新型コロナウイルスの変異株「オミクロン株」について、現在の主流株とは変異が異なる亜種が国内で少なくとも27例確認されていることがわかった。感染力が主流株より18%高い可能性があるとされ、海外の一部の国では置き換わりの傾向もみられる。今後、日本でも感染拡大を引き起こす懸念があり、国立感染症研究所(感染研)が警戒を強めている。 |
傾向としては、「テレビ局系ニュース」のうち、FNNプライムオンラインや、テレ朝ニュースだけが、リスクを煽るような内容になっていますが、その他の新聞メディアでは、普通の取り扱いになっています。
また、「ステルスオミクロン」という言葉は、そのインパクトが強いからからかこのテレビ局系ニュースで多く使われているようで、新聞メディアでは「ステルスオミクロン」という言葉自体を使用していない場合もあって、大抵は「BA・2」という表現を主に使っています。
多くの人が利用するネットニュースでは、前述の「テレビ局系ニュース」が上位に表示されてしまっていることから、彼らが垂れ流すニュースが、世の中の傾向のように勘違いしてしまう人も多いのではないかと推測します。
まとめ
重症化を報じているのは、FNNとテレ朝!
前述のように、インターネットで「ステルスオミクロン」のことを調べると、現状では、テレビ局系ニュースのFNNニュースプライムオンラインやテレ朝ニュースが、上位に表示されるため、いかにもステルスオミクロン株に感染すると発症した場合、重症化するような印象を受けてしまいます。しかし、よく見てみると、同ニュースの出どころは、東京大学医科学研究所の佐藤佳准教授の査読前論文の結果を引用しているだけです。
下表に、オミクロン株の感染力と重症化するか?について、報道各社のうち、テレ朝ニュース、FNNプライムオンラインと、その他メディアでの扱いの状況についてまとめてみました。
項目 | テレ朝ニュース、 FNNプライムオンライン | その他 |
---|---|---|
感染力 | ・オミクロン株の1.4倍。(テレ朝、FNN)(東京大学医科学研究所の佐藤佳准教授) | ・世界保健機関(WHO)は22日、新型コロナウイルスの変異型「オミクロン型」の派生型「BA.2」について、主流の変異型「BA.1」より「感染力が強いようだ」との見解を発表した。(日経新聞 2022/2/23) ・BA.1よりも18%程度高い(産経新聞) ・感染力は18%増(東京新聞) ・家庭内の二次感染の確率が30-34%上がる。イギリス:『BA.1』10.3% →『BA.2』13.4%(30%↑)、デンマーク:『BA.1』29% →『BA.2』39%(34%↑)(東海テレビ 2022/2/17) |
重症化するか? | ・重症化しやすい(東京大学医科学研究所の佐藤佳准教授)(テレ朝)→ (注)動画内で、同准教授の研究室での実験結果を根拠に説明。BA.2株そのもので実験しているわけではない。あくまで代わりの株での実験結果。 ・重症化に関しても、オミクロン株より重症化しやすい可能性があるといいます。(東京大学医科学研究所の佐藤佳准教授)(FNN) | ・世界保健機関(WHO)は22日、新型コロナウイルスの変異型「オミクロン型」の派生型「BA.2」について、(略)毒性には大きな差がない可能性にも言及した。(日経新聞 2022/2/23) ・「ハムスターを使った日本の研究で、肺のほうにウイルスがたまりやすく、重症化しやすいのではないかという話があるんですけど、BA.2(ステルスオミクロン)が流行っている国で、重症率や入院率が高くなっているかというと、BA.1とBA.2の間では差がないと言われています」(公立陶生病院 感染症内科 武藤義和 医師)(メーテレ 2022/2/22) |
(感染力)
感染力については、BA.2はBA.1よりも、感染力が高く、18から最大で40%ぐらい高くなるというの共通の認識のようです。テレ朝ニュース・FNNプライムオンラインとその他メディアで大きな差はありません。
(重症化するか?)
テレ朝ニュース・FNNプライムオンラインでは、「重症化の可能性」を報じている一方で、その他メディアでは「重症化の情報はない」と報じています。
テレ朝ニュース・FNNプライムオンラインでの情報の出どころは、前述のように東京大学医科学研究所の佐藤佳准教授の査読前論文の結果のみです。この研究室の実験の概要は、実際のステルスオミクロン株で実験しているわけではなく、人工的に作った「BA.2」では重症化につながる病原性の高さが明らかになった、というものです。
実験自体は、とても有用なことだと思います。しかし、テレ朝ニュース・FNNプライムオンラインがこの一つの結果だけを針小棒大に取り上げて、「ステルスオミクロン株に感染すると重症化してしまう!!」かのように報道しているのは、いかがなものかと思います。
最後に
いわゆる「ステルスオミクロン株」は、発見されてからそれほど時間が経過していないので、それで本当に重症化するかどうかは、全然わかっていないようです。
視聴率を獲得したい、テレビ局系ニュースのテレ朝ニュース・FNNプライムオンラインが「なんとかステルスオミクロン株で重症化する!」という報道をしたいがために、その根拠として、東京大学医科学研究所の佐藤佳准教授の実験結果に飛びついたというのが、実際のところだと、推測しています。
追加情報 2022/2/25
令和4年2月24日に行われた第73回新型コロナウイルス感染症対策アドバイザリーボード(資料1)(厚労省)によれば、「ステルスオミクロン株が重症化するかどうかはわかっていない」と厚労省が認識している、以下の記載があります。↓
【BA.2系統】海外の一部地域ではBA.2系統による感染が拡大している。現状、国内におけるオミクロン株の主流はBA.1系統であるが、BA.2系統も検疫や国内で検出されており、その割合は増加する可能性がある。この場合、感染者数の増加(減少)速度に影響を与える可能性がある。なお、BA.2系統はBA.1系統との比較において、実効再生産数及び家庭内二次感染リスク等の分析から、感染性がより高いことが示されている。BA.1系統とBA.2系統との重症度の比較については、動物実験でBA.2系統の方が病原性が高い可能性を示唆するデータもあるが、実際の入院リスク及び重症化リスクに関する差は見られないとも報告されている。また、英国の報告では、ワクチンの予防効果にも差がないことが示されている。
つまり、公式発表と言える厚労省の認識では、いわゆるステルスオミクロン株(BA.2)では、(主流のBA.1に対して)感染性が高いことは認識されているが、重症化リスクが高い可能性については動物実験での結果があるだけで、実際のデータでは差がない、という認識になっています。これをみれば、「ステルスオミクロン株は重症化する!」という話は、一部メディアが一つの結果だけをみて(しかも動物実験でしかない)騒ぎ立てているだけということがよくわかります。